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良いおせんべいって何だろう?

良いお煎餅とは何かを考える
私が煎餅屋を営むにあたって、いつも考えることがあります。全国のお煎餅を食べてブログに書いておりますが、その時もいつも思うことがあります。それは「良いお煎餅」ってなんだろう?特に「良い」ってなんだろう?ということです。「良い」という言葉は非常に抽象的です。また主観的とも言えます。人によって環境によってタイミングによって、その意味を変える言葉です。甘いお煎餅が良い時もあれば、辛いお煎餅が良い時もあるでしょう。堅いおせんべいが良い人もいれば、柔らかいおせんべいが良い人もいるでしょう。自宅で寝ながら食べるなら安いおせんべいが良いかもしれませんし、お世話になった方に差し上げるなら高いおせんべが良いかもしれません。コロコロと変わる「良い」という形容詞がついているために、良いお煎餅を追求しようとすればするほど矛盾にぶつかります。絶対的な「良い」にたどりつこうと努力すればするほど、それはコロコロと変わり、一体自分が求めているのはなんだったのかわからなくなってしまうのです。

こうなると、「良い」という言葉が意味を失ってしまいます。 「良い」ものはある、しかしコロコロと変わってしまうので定まったものではない。 あるけどないもの。つまり仏教でいう「空(くう)」なのです。

私はこの「空」に出会った時、大きな、とても大きな気づきを得ました。 迷子になって不安な心で彷徨っている時に、空を見上げたら、どんな道の上でも同じ空の下にあるんだということ。ここへ行けばいい、という正解があるのではなくて、自分自身がどこに行くのか決めて、その道々を歩く過程を楽しむ自由があるのだという気づきです。

ですから、これからお話する「良いおせんべい」とは、私が信じる良さであり、私の主観によって決めた良さです。お読みくださっているお客様の意見と合わないこともあるかもしれませんが、きっと共感をいただける所もあると思います。長い前置きになってしまいましたが、是非お読みくださればと思います。
お煎餅を分解してみた!
さて、私が考える良いおせんべいとは「おいしい」ということにのみ主眼を置いています。おいしさを考えるためには、まずお煎餅がどうやって作られているのかを分解して考察してみましょう。 まずお煎餅は小麦粉かお米から作られています。南部煎餅やイカせんは小麦から作られていて、草加せんべいやぬれせんべいはお米から作られています。当店ではお米の煎餅のみを製造販売していますので、私はお米の煎餅に限ってお話します。 お米のせんべいは普段私たちが食べている「うるち米」とおもちになる「もち米」の2種類から出来ています。それぞれ性質が違うので、この2種類のお米を混ぜて作るということは基本的にありません。うるち米から作られたものを「煎餅」、もち米から作られたものを「おかき」または「かきもち」と言い分けることもあります。また丸く平べったいものを「煎餅」と言い、粒状になったものを「あられ」といい分けることもあります。
お米について「コシヒカリ」「ヒメノモチ」輸入米など
お煎餅はお米が主原料となります。お煎餅の味を決める大事な要素です。一言でお米といっても、煎餅屋にとっては沢山の選択肢があります。まずは「国産」か「輸入米」かです。国産であれば日本では全国でとれますから、どこでとれたものを使うのか、品種はコシヒカリか、あきたこまちか、フサオトメか、そしてそれは新米か古米か。またブレンドするという手法もありますし、「加工米」といって、通常の食卓にはだせない割れてしまったお米を使うこともあります。多くの煎餅屋さんにとって加工米を使うのは一般的なことです。もともとお煎餅はお米を砕いて粉にするのですから、結果として同じことだという発想です。輸入米の場合、色々な国が考えられますが近年ではアメリカ産のお米が多いようです。全国的に販売している大手のお煎餅屋さんはアメリカ産のものを使用していることが多いです。その魅力はなんといっても価格で、国産と比べると大変そうです。
醤油と生醤油の違いはなんだろう?
「生醤油」でつくったおせんべいです、と書かれた商品を見かけることがあります。消費者の立場からみると、なんとなく新鮮な醤油を使っているというイメージがある生醤油ですが、普通の醤油とはどう違うかわかりますでしょうか? お煎餅につける醤油はお店が独自に調味料をブレンドしてお煎餅に合うよう味を調節しています。その際、醤油を煮込んで調味料を溶かすので、醤油の酸化が進みます。すると醤油の味は渋みを増し、香りが落ちます。「生醤油」とはこのように加熱をせず、また調味料を入れていない醤油のことです。ですから生醤油でつけたお煎餅のほうが醤油の味がクリアで、すっきり香りも良いということになります。しかしお煎餅は醤油をつけた後に乾燥させなければいけないので、どうしても酸化が進みますし、香りも当然落ちますから、生醤油がもつ本来の良さをお煎餅で表現することは難しいでしょう。
醤油の種類と味の違い
日本の醤油市場は「ヤマサ」「キッコーマン」「ヒゲタ」と大きな企業があり、また個人でやっているお醤油屋さんも沢山あります。どこのお醤油を使うかはそれぞれのお店の好みになるでしょうが、お煎餅に使う醤油の量はとても多いので、たいていのお煎餅屋さんは大手3社の醤油に独自の調味料を使ってお煎餅を作っています。ただ、お煎餅屋さんや醤油屋さんというのは歴史の古く、従って地元密着型の店が多いので、地元同士のつながりで個人でやっている醤油屋さんのものを使っているお店もあります。 各社各店、それぞれ味の違いがあります。比べてみないと、どれも同じ醤油に思えますが、並べてなめてみるとそれぞれ違うものだなぁと感心するものです。醤油もお酒と同じで醸造によって作られますから、同じ材料を使ってもその行程の違いで大きく味が変わります。私達が良く見る醤油として淡口(薄口)醤油と濃口醤油があります。文字だけみると淡口醤油は味が薄いように見えますが、実際には淡口醤油は見た目がクリアで淡い(薄い)ということで、味付けは濃口醤油よりも塩気が強くなっています。煎餅に使うと塩気がとんがった仕上がりになります。どちらがお煎餅にあっているということはなく、濃口に比べるとクセがないので、お米の味を生かしたい時や、生地に混ぜ物をしている場合の味を活かす時に使います。
大手が知りつくす調味料マジック
スーパーなどで出回っているお煎餅達の多くは外国産のお米が使われています。大手の煎餅屋さんは安くて大量に仕入れられるアメリカ産のお米を大型のハイテク機械で加工してお煎餅にしています。私達のような小さなお店の煎餅屋がアメリカ産のお米を煎餅にしようとすると、とてもじゃないですが品物になりません。しかしハイテク機械で加工すると普通のお煎餅として充分に楽しめるお煎餅が出来上がります。ただ、お米の味わいはほとんどなく、調味料と食感でおいしいお煎餅に仕上げています。原材料をみると大変な数の調味料が使われていて、これを巧みに調合する大手の煎餅屋さんというのはすごいなぁ、感心します。実際おいしいものが多いですからね。
お煎餅を作る行程はこんなにあります
お煎餅を作る工程は沢山あります。お米を仕入れたら「研ぎ」「製粉」「蒸し」「練り」「伸し」「乾燥」「火炉」「焼き」「醤油つけ」「乾燥」。これだけの行程を経てようやく出来上がるのです。お煎餅によっては生地を作り始めてから食べられるようになるまで3カ月もかかるものもあります。スーパーではお煎餅がとても安く売られていますが、これは大型の機械が休みなく稼働して大量に作っているので安くできるのでして、私達のような小さなお煎餅屋さんはとても同じ値段では作れませんし、販売できないことはご理解いただきたいです。もちろん高い値段に見合うだけの価値あるお煎餅をお届けできるよう日々努力を惜しまず頑張っております。
お米をどれだけ細かく粉にすべきか?
おせんべいを作る最初の大事な段階が「製粉」です。当店では臼のような仕組みの製粉機を使ってお米を細かくしています。製粉においてはどのくらい細かくするかが、後の仕上がりに大きな影響を及ぼします。細かくすればするほどお煎餅を焼いた時は膨らみ、柔らかくなります。逆に荒くすると堅いお煎餅が出来上がります。サクサクした食感にするか、バリバリした食感にするか。その食感とタレの相性はどうかなどを頭に入れて細かくしていきます。
せんべい用語「伸し」について
「伸し」とは聞きなれない言葉だと思いますが、お煎餅業界用語です。お持ちをローラーで伸ばして均一な厚みにする行程です。伸ばしながら型にはめて丸い形に切り取っていきます。型を取り換えれば四角い形や変わった形にもできますが、複雑な形にはうまく切り抜けませんし、なんとか切りぬことが出来ても、後の行程で割れやすくなってしまいます。厚みもまた食感に大きな影響を及ぼします。生地を厚くすることで堅くなり、お米の味を生かしたお煎餅が作れますし、薄くすることで柔らかくタレの味を生かしたお煎餅がつくれます。
干し方で味がちがう?そんなことあるの?
伸しが終わり切りぬかれたお煎餅の生地はそのまま乾燥にかけられます。お煎餅を乾燥させる方法には天日干し、熱風乾燥、蒸気乾燥があります。天日干しは空の下で太陽と風で乾燥させていきます。広い敷地がなければできませんが、燃料代がかからず小規模で煎餅をつくるお店には適した方法です。ですが、気象条件の影響を直接受ける上、一日では乾かず、ばらつきも多いので、天気を予測して計画的に作る必要があります。大変な手間がかかります。お日様の力でおいしくなる、と言うこだわりのお煎餅屋さんもいます。 熱風乾燥は小規模な施設で乾燥させることができる方式で、施設内で火を焚き温度と乾燥でお煎餅を乾かす方式です。建物と火を焚く装置があればできるので、投資コストを抑えることができます。しかしお煎餅を置いた位置によって乾燥の度合いがばらつくため、乾燥させるまでに何度か位置を動かさなければいけません。 蒸気乾燥はボイラーを使って蒸気を作り、それをパイプの中にとおします。パイプは棚状になっており、その棚の上に生地を乗せることで、熱と乾燥により乾かしていきます。やや複雑な仕組みになっているため、投資コストは高いのですが、生地を均一に乾かすことができ手間もはぶけます。
決定的に大事なのに謎が多い「火炉」
火炉は乾かしたお煎餅を焼く前に温めて生地の水分量を調節する行程です。この行程によりお煎餅の焼け具合が全く違ってきます。同じ生地でもこの行程を変えればまったく別のお煎餅になってしまいます。お煎餅を膨らまして軽い食感にしたければ低温でじっくり乾燥を効かせます。また堅く歯ごたえを良くしたければ乾燥時間を短くします。焼く前に行うこの行程は非常にシビアで、乾燥が足りない時間帯と乾燥させ過ぎている時間帯は長いのに、丁度よいという時間帯はわずかしかありません。職人の感のみでこの時間帯を見極める必要がある重要な行程になります。
焼き加減は職人の一芸
焼き加減は、生焼けと焦げ過ぎを除けば職人やお店の好み、そして焼き方によって決まります。良く焼いた方が表面がきつね色のおいしそうな仕上がりになり、香ばしさが増しますが、焦げのえぐみも増していきます。タレとの相性もあるので、千差万別です。
十人十色の焼き方
お煎餅の焼き方はいくつもあり、火の違いで「炭火焼き」、「ガス焼き」、「電気焼き」、焼き方の違いで「押し焼き」、「バッタ焼き」、「運行焼き」とあります。「炭火焼き」が最も火力が強く、押し焼きがもっとも手間がかかる方法です。規模の小さいお店は炭火焼きで押し焼きが多く、規模が大きくなるにつれてガス焼きや電気焼き、一度に量が焼けるバッタ焼きや大量で均一に焼ける運行焼きを用いるようになります。「押し焼き」は網の上で生地を一枚一枚ひっくり返して焼く方法です。焼いていると、生地がポコポコと泡のような膨らみ方をします。放っておくとどんどん増えて歯ごたえのない煎餅になってしまいますから、上から板状のもので押して潰してペッタンコにします。こうすることで堅いお煎餅を作ることができる方法です。「バッタ焼き」は生地を大きな網で挟んでひっくり返して焼く方法です。職人が網をひっくり返すこともありますし、機械がひっくり返すようになっていることもあります。沢山の生地を一緒に挟んでいるので、一つのお煎餅が膨らんでしまうと網が広がりお煎餅がずれたり落ちたりします。そのため先が曲がった鉄の棒で膨らみそうなところに刺して穴をあけ、生地が膨らまないようにします。または膨らまないように作った生地を使用します。 おせんべいは火力の強い炭火で焼くと非常に良い仕上がりになります。お煎餅の表面にはきめ細かい穴があき、そこへ醤油がしっかりと入っていきます。何より厚い生地のお煎餅を焼く時は炭火でないと中まで火が通りません。表面ばかり焦げてしまい、中は生焼けということになってしまいます。とても素晴らしい炭火ですが、火をおこすまでに時間がかかり、小さな釜の中でさえ火力が一定にならず、均一に焼くことがとても難しい上に、燃料コストが10倍以上かかります。また近年、炭の値段は電気やガスの値上がりをはるかに超えて高騰しており、良質な炭を手に入れて煎餅を焼くのに使うことはほとんどできません。中国産のコークスを使っているところが多いようですが、かなり質が悪く以前よりも火力が上がらず、すぐに崩れてしまうと嘆いていました。電気焼きは温度の調節がしやすく、燃料コストが小さいため使いやすい方法ですが、どうしても火力が出ないため、お煎餅の表面がのっぺりと滑った焼け具合になってしまいます。ガス焼きは炭火焼きと電気焼きの中間の性質があります。
醤油をつけるだけでも、こんなに方法があるの?
醤油のつけかたには「刷毛塗り」「手づけ」「がらづけ」「機械スプレー式」があります。刷毛塗りは一枚一枚刷毛で醤油を塗る方法です。余分な醤油がつかないので生地を活かすお煎餅づくりに適しています。手づけは醤油の入った壺の中にお煎餅をドポンといれてしまう方法です。醤油がたっぷりつきますので味が濃いめになります。「がらづけ」は円柱形の網の中におせんべいをいれ、醤油が入ったタンクの中にどぽんと入れます。引きあげた後遠心分離をおこなって余分な醤油を飛ばす方法です。沢山のお煎餅を一度に醤油づけできます。「機械スプレー式」は回転するタンクの中にお煎餅を入れグルグル回します。回っているところに霧吹きのようなもので醤油を飛ばしお煎餅に均一に醤油がつくようにします。大型の装置になりますが一度につける醤油の量を正確に計測できるので品質を一定にすることができる方法です。
お煎餅にまつわる誤解を考える
お煎餅にまつわる最も大きな誤解。それは「お煎餅は安い」というものです。スーパーで販売されているお煎餅の値段は100円~300円くらいが一般的です。量も沢山入っていて安いです。ですから決して誤解というわけでもないんです。ただ、ここまでの話を読んでいただければご理解いただけると思うのですが、お煎餅というのは必ずしも安く作れるわけではありません。たくさんの行程をオートメーション化すること、原材料を大量に安く仕入れること、そしてそれを支える販売規模を大きくする企業努力によって安くできているのであって、もし手作りでこだわりのお煎餅を作ろうとおもったら、到底あの値段で販売することは出来ません。その代わりにそれぞれ個性の光るお煎餅を作っていますから、是非食べ比べてお煎餅を楽しんでいただければと思います。

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